ロンドン留学の日々

イギリス・ロンドンの生活、文化、基礎知識を綴ります。留学・ワーキングホリデー・移住。

イギリス人の距離のとり方

1
 
イギリス人はよく行列をすると言われます。そして筆者が気づいたところによると、多くの場合、前後に十分な距離を保って、美しく並びます(それが美しく見えてきます)。

たまに後ろにギュウギュウに詰めて並ばれると、その人たちから聞こえてくるのは外国語なことが多く、人肌のコミュニケーションを大事にする国から来た人たちなのだな、などと思って、膝裏に当たる後ろの人の衣類のこそばゆさに歯を食いしばって耐えるしかありません。

そしてヨーロッパ大陸から来た人は、不愉快な時にそれを訴えてやめてもらうことを厭わないようですが、「シャイなイギリス人は声を上げられずに黙って我慢」という話を新聞のコラムのようなもので読んだことがあります。日本もどちらかと言うとそのような文化な気がするので、筆者はそれを奥ゆかしさと呼んで、愛でることにしています。これは個人的な体験と意見ですが、イギリス人の対人距離感については、よく耳にすることでもあります。

例えば、現在のパートナーに惚れた理由を「彼の方から握手を求めなかったから」と言ったイギリス人女性がいます。仕事を通して出会った2人なので、最初は握手から始まったのだろうと想像していましたが、「紳士たるもの、女性が心を許して手を差し出す前に握手を強要すべきではない」というアイデアが、イギリスで生まれて他の国でイギリス人の親に育てられた彼女の中で、密かに培われていたようです。それを「理想の男性像」の条件として掲げていたわけではないにしろ、彼の小さな仕草に気づいて心を掴まれたようです。

また世代によっても変わってきているようで、毎日顔を合わせる大学の友人と、これまた毎日ハグやキスを交わすことに最後まで慣れなかったイングランド北部出身の友人がいます。「最近の人たちはアメリカ(北米)のテレビの見過ぎか、ヨーロッパに感化され過ぎている」と呟いていました。イギリスを含むヨーロッパも、大陸から来た人たちは、とても素敵に頬にキスを交わすようです。前述の女性の「紳士なパートナー」は、自分の父親と会うと、父と息子の男同士の固い握手を交わすそうです。

2
 
少し状況が違いますが、2009年には、米大統領婦人として英エリザベス女王と初対面を果たしたミシェル・オバマさんが、女王にハグをしてしまったと話題になったことがありました。高貴な女王との接触には細かいルールがあり、直接目を見て話すことさえ許されないといいます。そこでチャーミングなアメリカ大統領夫人なりの敬愛の表現をしたものですから、イギリスをびっくりさせてしまったようです。

再び筆者の経験になりますが、ロンドンに来て初めの頃に少し仲良くなったスペイン人の男の子が、別れの挨拶に毎回両頬にキスをしてくれようとしていました。今でこそ、どうもどうもと自分でもそれっぽい「チュ」という音を出して気軽に対応できるようになりましたが、当時は毎日のようにそのようなことをされることは心地が悪かったので、「わたしはボディタッチをしない国から来たもので」と説明し、せめてハグだけにしてもらうようお願いしました。彼は彼で「バイバイを言う時にキスをしないなんて、とても失礼なことをしている気がする」と心地悪そうに言っていましたが、こちらの文化に合わせてくれました。

頬にキスをする回数も、国によって違うようです。片頬に一度の国もあれば、両頬に一度ずつの国、右、左、右(もしくは逆周り)のように三度繰り返す文化もあるようです。フランスに暮らすスイス人の友人がロンドンに遊びに来た時に「イギリス人は何回やるの?」と尋ねられたこともあります。筆者を家族の一員のように扱ってくれるイギリス人の親友の親やおばあちゃんとは、唇にキスをします。イギリスにいる外国人の話になってしまいましたが、これも筆者のイギリス体験の一部であります。

イギリス人のルールに関しての記事にも当てはまりますが、お伝えしたいのは、体験は人それぞれ、環境やその人の受け取り方によっても変わってくるということを念頭に置いておくのが大切だということです。筆者が見てきたのは西ロンドンと東ロンドンのほんの一部の地域の姿、ほんの一部の人との体験ですし、ここに書いてあるのも筆者の見解でしかありません。

北ロンドンではまた違う形のコミュニティがあるでしょうし、イギリスの別の地域に暮らす人もまた、全く別の文化や人間模様を見ることでしょう。

情報を手に入れることは難しくない世の中となりましたが、使い方はあなた次第です。読んだことが真実であると鵜呑みにしたりせず、見たものが世界の全てであると決めつけたりもせず、多民族が暮らす国にいるということを最大限に楽しんで、多くを吸収して柔軟な思考を培うチャンスとしていただければと思います。