ロンドンのDIY事情
イギリスで家(または部屋)を借りると、原状回復を条件に手を加えてもいいよ、と言われることが多いようです。
壁に釘を打って棚を取り付けたり、借家の場合は壁にペンキを塗ったりすることも頻繁にあります。
またトイレの便座が壊れたので買い替えて自分で設置するなど、日本であれば「丸ごと交換になるのかな」などと考えてどこに連絡すれば良いのか迷いそうな状況でも、便座の部分だけ売っているのをよく見るので、自分で交換するという解決策が視野にあるように思えます。
つまり人々は自分で何かを修理したり家のデコレーションをすることに慣れており、その為の道具を手に入れることも簡単なのです。
もちろん、全て業者に頼んだり物件の持ち主と相談してハンディマンを派遣してもらうという人もいるでしょうが、DIYが「家具を作ったりする趣味」の枠を越えて生活の一部になっているイギリスの家庭には、ある程度立派な工具セットが常備されていることが多い気がします。
特にプラマー(plumber=配管工)やエレクトリシャン(electrician=電気技師)といったその道のプロでもないけれど、物置から電動ドリル(electric drill)やハンダゴテ(soldering iron)が出てきたり、家具を取り付けるのに水準器(spirit lebel)を使って真剣に角度を図ったり、といったことが珍しくないようです。
日本の賃貸住宅のルールに慣れていた筆者が、壁に額縁を掛けるのに壁に釘を打つことを躊躇していたら、そんなに気になるなら退去時にフィラー(filler=ペンキの前に塗布して塗装面を平滑にするペースト)を埋め込めば十分だよ、とアドバイスをもらったこともあります。
そしてそのフィラーも、ペンキを塗る人なら大抵持っていますし、お店のペンキコーナーで簡単に見つかります。
壁に穴を開けたくない人は、Blu Tackという粘着性のラバーで解決です。画鋲の代わりだけでなく、プラスチックや木にも使え、剥がした後が残りません。日本でも購入できるようですが、イギリスではあらゆるお店の文房具コーナーに必ずと言っていいほど置いてあります。
テレビのコマーシャルも頻繁に流れるので、生活に密着していることがわかるかもしれませんが、DIYの道具を扱うお店は数多くあります。
B&Q、Homebase、Wickesなどインテリアからガーデニング用品、バスルームやキッチンの素材や部品を幅広く扱うDIY専門のチェーン店は、プロフェッショナルなだけあってだいたい何でも揃う上に店員さんに相談もできるので、何かトラブルが起こったり必要なものが出てきたらとりあえず足を運んでみると良いでしょう。
また文房具や日用品、衛生用品も扱うWilkoやB&M、店頭(またはオンラインで予約)注文してその場で受け取るArgosでは、比較的安い値段でペンキ塗りツールや工具などベーシックなアイテムを抑えています。
大抵のお店はオンラインショップも運営していますが、DIYが盛んなだけあって、種類が豊富過ぎて望む色や素材に迷いすぎたり、何しろ古いものを頑張って使い続けるイギリスですので、現在はフラットに装備してあるものと同じ型番を扱っていないということがあったりと、ハードルが高いこともあるでしょう。
DIYをしてみようかなと思ったならば、いくつかお店を巡ってみて、気軽にアイテムが手に入る環境を楽しんでみると良いかもしれません。
スパナー(spanner)やレンチ(wrench)など日本語の認識で通じるDIY用語もありますが、日本と違う、またはイギリス的な呼び名を持つ道具も多くあります。店頭で目指す商品にたどり着けるよう、いくつかご紹介します。
- ペンキ=paint(ペンキを塗る行為も、動詞としてpaintが使われます)
- ネジ=screw(ドライバーはscrew driverと言わないと伝わりません)
- ペンチ=pliers(挟む部分が2つですので複数系です)
- カッターナイフ=stanley knife(英スタンレー社に由来、カッターの愛称のようになっています)
- 自転車などに使われる六角レンチ=allen key
さて賃貸フラットやシェアフラットの場合、何が借用社の権利で、どこまでが誰の責任なのでしょう。
もっとも、それぞれ大家(landlordまたはlandlady)との契約によって異なるので一概には言えませんが、一般的にトイレやシャワー、クッカー(調理台)など備え付けのものが壊れた場合は大家が修理、電球など消耗品の交換はテナント(居住者)の責任、と考えて良いでしょう。
大家にはテナントが安全な生活を送る環境を保証することが義務付けられているので、例えば暖房器具や水道管の修理は即時対応しなくてはなりません(とは言っても業者の対応が遅い危険もあるのがイギリス)。
またネズミやベッドバグ(南京虫)が出た場合には、専門の業者に駆除を依頼しなくてはいけませんので、大家に連絡をしましょう。
テナントが個人的に業者に何かを依頼したい場合は、大家に相談する必要があるでしょう。
大家が把握していない部外者の侵入が原因で万が一トラブルが起きたなら、テナントの安全は大家が保証できる範囲を越えています。
その場の行為に限らず、間取りを把握されて後に窃盗に入られる可能性などもないとは言えませんので、テナントにも、大家の物件に損害を与える行為を避ける責任があります。
最終的にやり取りする金額の大きさや物件の価値を考えると、大家とは良好な関係を保つに越したことはありません。
日本と比べると自由度は高い方だとは思いますが、分からないことがあれば豆に連絡を取って、心地よい家造りを楽しんでください。